1999年4月号(第33号)

 

 

家族の絆を大切に

        所 長  辻   英 彦

近年、私の事務所に離婚に関係する様々な相談や離婚に伴う登記の依頼があります。

欧米各国並に日本にも離婚する夫婦が増えてきたのでしょうか。

「離婚は結婚よりも多くの労力がいる」と言われ続けています。

実際、手鍋ひとつで(少し古臭い表現かも知れませんが)でも始められる
結婚と比較してみても、離婚というのは多くのするべき事柄があります。

私の仕事に限ってみた中でも、財産分与による所有権移転登記、
養育費の支払いに関する公正証書の作成嘱託や、それらに付随する契約書の作成など、
多方面に亘っています。

もちろん、弁護士のように当事者間の紛争の中に立ち入ることはできませんが、
現実には法的な結論や進め方など、逐一説明しなければならないことがしばしばあります。

去る3月27日には、
名古屋で中学生が再婚した義理の父親を殺したという事件も発生しています。

また、歌手の安室奈美恵の母親の殺人事件も、
ある意味では離婚という事実の被害でもあるように感じられます。

決して「離婚をするな」という訳ではありませんが、
往々にして離婚の結末が不幸な結果として現れることも事実であります。

人生は一度きりのものですから、
性格が合わないなど、一度だけの人生をやり直すことも大事なことではありましょうが、
そこに潜んでいる子どもの人権を度外視して
大人だけで離婚を決めてしまうことは果たして良いことなのかどうかと
思い返してみるのもあながち無意味なことではないと思います。

ある新聞にはこうも書いてありました。
「子は夫婦のかすがいと言われた時代は終わり、ローンが夫婦のかすがいだ」と。

言い得て妙なる表現でした。

しかし最近に扱った例では、ローンも夫婦のかすがすにはなり得ませんでした。

やはりお互いが思いやりの気持ちをもって、
心豊かな(決して金に豊かなではありません)夫婦で作り上げる人生こそが、
不況のさなかにおける人の生きていく知恵ではないでしょうか。

最近の図書の中で、「五体不満足」という本があります。

下肢のない著者が、
「五体満足ではない、しかしこれは不幸なのではなく、不便なだけなのだ」
と心を強く生きているその姿を読んで、人の生きていく大きな指針ではないかと感じました。

不平・不満は誰にでもあるものですが、
それらを受け入れる大きな心をもって、
その中で家族の絆をより強く生きていきたいものです。