司法書士事務所のコンピュータ化

               

司法書士  辻   英 彦

 私が、登記制度のコンピュータ化にかかわって、25年を過ぎようとしている。不動産登記におけるコンピュータ化については、昭和51年にフランス・スウェーデンを訪問し、現地での実状を視察して感じたことは、これからの情報化社会にあってどのような機能を登記簿に持たせるかということと、できるだけ迅速な登記処理に資するかという点であった。これに関連して、登記事務の一翼に担う司法書士事務所において、これにどう対処していくかという点であった。極論すれば、紙と筆(勿論、タイプライタもあったが)さえあればよかった司法書士が、社会の流れの中でどのように変化していけるかの試練でもあった。工業における規準がJISからISOに変化している現代にあって、ただひとり司法書士が旧態依然とした執務体制であって良いはずはなかった。
 私の祖父の代から事務所を継続している私にとって、「以前お世話になった○○です」という言葉がズシリとした重みを感じる瞬間でもあった。後で調べてみると50年も60年も前のことで、私自身が全く知らないことでもあり、これも大切なお客様なのである。今回100年の歴史を振り返るために資料を調べてはみたものの、現在では知る人の少ない「寄留制度」に関する書籍や明治時代の六法全書などは残っているものの、どのような流れで仕事がされ、どの程度の報酬を頂戴していたのかなどは、事務所内ではその痕跡すら見出すことができなかった。
 このように、殆どの事務所がかつての資料などをどの程度保管しているかなどは推して知るべしという状況であったといえよう。そこで、事務所の事件処理の正確性と共にその保存に有効な手段として、コンピュータの活用に思いが至ったものである。近未来において、不動産登記簿のオンラインによる閲覧(登記事項要約書)が可能になることとの関係で言えば、大きな効果はなくなるとはいうものの、事件毎に付番した管理番号によって、処理した事件の内容とその当時の登記簿の状況とが把握できることは、事務所と登記所との距離のある事務所にとっては有効であると言える。このような発想から、受付カードを導入し、その情報をコンピュータに格納し、そこから様々な情報を整理・編集して残すことに大きな意義を求めたものであります。
 このようにして、司法書士事務所専用コンピュータ・システムの開発に協力し、県内で最初にこのコンピュータ・システムを導入いたしました。
 私と実務上でのコンピュータとのつながりはこのようにして生まれたわけで、以後事務所内に様々なOA機器を投入し、前にも述べましたような近未来における登記情報のオンライン取得への足がかりを構築しております。
 一方、私が日本司法書士会連合会の登記電算化特別委員会(昭和50年9月〜昭和52年6月)やブックレスシステム調査研究委員会(昭和52年9月〜昭和56年7月、昭和63年3月〜平成元年6月)、登記情報システム調査研究委員会(平成元年7月〜平成3年6月)において調査・研究した成果については、既に連合会に対して報告書を提出してありますが、私どもの業界においてもいよいよ情報化社会に対応できる人材だけが生き残っていけるとの認識を新たにしたところであります。
 これからは、広く市民が求める司法書士の姿を視野に入れて、益々研鑽に励まなければならないと感じております。常に弱者の立場を見守りつつ、信頼される理想の司法書士像の実現を数多くの司法書士と共に創り上げることこそが、彦根の地において100年のあいだ仕事を続けさせていただいた私どもの事務所の使命であると考え、より一層業務に邁進したいと考えております。

                                      平成8年11月