所長のひとりごと
 
since February 13, 2002
 
 
2002年2月13日
小泉内閣の構造改革をはじめとする「改革」って、なんなのでしょう。
国民が苦しみ抜いています。
私たちの業界でも然りです。
 
昭和55年頃の彦根の登記所(管轄区域は現在の管轄区域より小さかった)の
不動産登記の事件数は20,000件を優に越えていました。
昨年(平成13年)末の事件数は約18,000件と、
管轄区域を考えると、少なく見積もっても15%は減少しています。
 
これは、金融機関の自己防衛のための融資案件の減少と、
企業の設備投資意欲の減少が相俟って、
担保設定事件が減少したことと、
不動産融資に対する金融機関の消極的姿勢から、
不動産購入意欲が減退したことによる相乗作用によって、
登記事件数の減少を招いたものと断言できるでしょう。
 
また、デフレ・スパイラルの中、
価格破壊もおこっています。
かたや、国民の権利意識は益々高まり、
それに伴って神経と時間を相当に使う仕事が増えています。
登記というものは、まず登記簿の把握、公図・地積測量図の把握から始まります。
そのためには、「登記手数料令」という法務省令で定められた閲覧等の費用が発生します。
 
例えば、相続登記をしたい、という場合でも、
どのように登記がされているのかによって、登記すべき内容が変わってきます。
建物が増改築されている場合や、全く建物の登記がされていない場合などは、
建物の表示に関する登記から始めなければならないこともしばしばあります。
それを確認するためには、まず登記簿の状態を調べなければ、
費用はもとより、手順や必要書類も異なってきます。
なにも分からない状態で、費用の計算などできるはずもありません。
 
登記の費用の大部分は、登録免許税という国税です。
昨年一年間で、私どもの事務所を通じて納税した額は6500万円を超えています。
これらの税金は登記を申請する際に、同時に納付しないと、
不動産登記法第49条第9号(商業登記では商業登記法第24条第17号)によって、
その申請は却下されます。
登記は、依頼者が権利の保全を図ったり、対抗力を備えるために申請するものです。
従って、登記に要する費用は、事前にお預かりをさせていただいているのが実情です。
 
私たちの報酬額は、法務大臣の認可によって、会則の中に定められています。
私たちの仕事は、単に申請書を作成することや、
土地を測量するだけのことではありません。
その過程において、正確であるのか、適法であるのか、
あるいはその登記が真実であるのかを判断します。
また、測量作業においては、様々な資料から、
当事者の主張が正しいのはどちらであり、登記の経過から見て、
正確にその経過を反映しているものであるのか、など
目に見えないプロセスを踏まえて仕事をしています。
しかも、依頼者の所有しておられる所有権なり担保権は
大きな財産的価値を有するものです。
後日、登記の中身が問題となった場合には、損害賠償請求がなされることも
念頭に置いておかなければなりません。
 
そして、今国会に
司法書士法と土地家屋調査士法の一部改正法が上程されることになっています。
この改正で、報酬額の会則での明記が撤廃されます。
しかし、私どもの事務所では、その定められた報酬額の中で、
最大限の企業努力をして、最善を尽くして業務を進めています。
 
特に、日本の不動産登記制度の中で、
地図に対する認識はまだまだ低いと言わざるを得ません。
明治時代に測量されたままの地積が登記簿に公示されています。
精度の低い測量と、それ以後の戦災や農地解放・乱開発を見てきた土地は、
きっと自分の登記簿を見たならば嘆いているでしょう。
土地の現況を正しく登記簿に反映させるためにできた制度が土地家屋調査士制度であり、
その制度趣旨実現に邁進してきたとも言えるのですが、
報酬額が会則から削除されることによって、
不当な廉価での作業によって、
手抜きがされ、十分な登記の解析なくして行われたとすれば、
それは50年の歳月をかけて築き上げてきた
不動産の表示に関する登記制度の瓦解を招来しかねないと考えるのは、
私一人でしょうか。
 
悪貨が良貨を駆逐する、の譬えがあります。
そのつけは必ずや訪れるでしょう。
 
私どもの事務所は108年という歴史を踏まえて、
親身になり、そして医業で言うところの「インフォームド・コンセント」を行い、
リピーターとして事務所にお越しいただけるように
努力を続けなければならないと考えております。

 

2006年1月31日

私は昨年9月1日に
社団法人滋賀県公共嘱託登記土地家屋調査士協会の理事長に就任いたしました。
聞き慣れない名前ですが、官公署の登記(その中でも表示に関する登記)を受託するために
土地家屋調査士法の中に規定された公益法人です。

しかし、その公益法人が、現在、公益法人改革の渦中に放り込まれています。
全国に2万6千程度あると言われています財団法人・社団法人がその対象です。

私どもの協会は、純粋に土地家屋調査士のみで組織されており、
巷間伝えられる「天下り」は全く存在しておりません。
もとより、土地家屋調査士という職責は、
公平・正確に表示に関する登記を処理するための資格ですから、
時には、依頼人の意に添わないことも伝えなければならないわけです。
現在、話題になっています建築士の偽装問題は、
本来、法に従って手続を行い、法の抜け道を探して実行したことによるものです。
全国に存在する善良な建築士にとっては甚だ不愉快極まりないことだと思います。

私たちも、同様の職責を担っています。
「天下り」はともすれば情実の温床になっています。
公務員の優秀な知識を活かすための天下りであれば決して非難されるべきものではありませんが、
そうではなく、情実のために天下っている、天下りを受け入れているのであれば
非難されても仕方がないでしょう。

私たちは、そのようなことなく、誠実に業務を行っています。
正すべきはこれらの問題であり、
十把一絡げにして悪くもない組織をも批判しているとしか思えません。

国民本位の政治が望まれてなりません。

 

2006年7月6日

経済性とは何なのでしょう。
財政の破綻を招いたのは誰なのでしょう。
このごろ考えることは、行政にせよ、組織にせよ、
それを執行する立場の人間は、私心を捨てて事に臨まなければならないということだと思います。
日銀の福井総裁が、村上ファンドへの資金提供をしていたこともそうでしょう。
自分の立場を理解しているのであれぱ、今回のような問題は起きなかったでしょう。

それよりも何よりも、国家財政の危機や地方自治体の財政危機を招いた原因を追及しなければならないのではないでしょうか。
議員の数を減らすことも大切な施策でしょう。しかし、それは遅々として進んでいないように思います。
しかし、そのことよりも、税収を増やすことが大切なのではないでしょうか。
国や地方自治体が行っている「競争入札」の制度もある意味ではおかしいのではないでしょうか。
東京の公営住宅でのエレベータ事件もその顕著な例だと思います。
システムとしての、メーカーからのメンテナンス情報が提供されなかったという問題はありますが、
それよりも、安価な保守業者を指名したことに問題があると思います。
そのことによって、エレベータの取り替えをする必要ができますし、
その賠償をメーカーから取り戻すのに、どれだけの費用と時間が必要になるのでしょう。

そして、これを財政の面で考えた場合、果たして安価だからという理由だけで
保守業者を代えたことに問題はないのでしょうか。
適切な利潤を考えて入札がなされるのでしょう。
しかし、今日のように多くの脱サラ人間などが起業をし、
応札者が増えると、仕事が欲しいばかりに無理な価格設定をして応札する業者が増えないとも限りません。
適切な利潤を得た企業は、それなりの税金を納税する筈です。
それを安価に流れてしまうことで、
入りうるべき税金が少なくなり、更には、税金として収納されないことも考えられます。
もちろん、企業の税に対する考え方のクリーンさをも追求しなければなりませんが、
安値安定の社会にあっては、税収は期待できないものとなるのは当然の結論です。

今いちど、組織の長としてのあるべきスタンスを考える必要があるのではないでしょうか。

 

2015年4月15日

相続不能事例 1

 

 先日、当事務所に次のような相談があった。

 単身の弟が死亡し、姉が身の回りの品を調べたところ、預金のあることが判明した。そこで金融機関に赴き、解約の相談をしたようである。金融機関から被相続人の戸籍等を取得するように言われた筈で、何度も転籍をしていた被相続人の戸籍を揃えて金融機関に赴いたようである。

 そこで言われたのが、「弟さんには養子がいる。その人が唯一の相続人であるので、その人を探し出すのが先決だ」と。そうして、当事務所にどうすればよいのかと相談にみえたのである。

 さて、持参された戸籍を見るとその養子は中国人である。そこで、なぜ弟さんは中国人を養子に貰ったのかと聞いても、その経過は不明であった。

 

 私としても、その養子が日本人なら、世界に冠たる戸籍制度があるので、探し出すことができるであろうが、外国人ともなるとそうもいかないことを説明して、お引き取りいただいた。

 

 その後で、事務所のスタッフと話していた中で、国際結婚が増加している現代において、農家の跡取りのために外国から妻を迎えることも多いと聞く。しかし、中には子は生まれたが日本の生活に馴染めずに子を連れて母国に帰る母子もあると聞く。

 

 はて、この離婚した男性(A男)の財産はどうなるのか。子は、母親(A男の元妻)が離婚したとしてもA男の子であることに違いはないわけで、唯一の相続人となると考えられる。再婚して後妻に子ができたとしても、外国に帰った子は後妻とともにA男の共同相続人であることには違いない。

 

 養子を貰わなかったり再婚しなかった場合には、外国に帰った子が唯一の相続人となる。

 

 全国各地で自治体が音頭を取って外国人妻を紹介する「婚活」が行われているようだが、お金だけではなく田畑までもがその子に引き継がれていくことになる。

 

 しかも、日本のように戸籍制度が整っていないであろうから、死亡後にその子を探し出すのは困難を極めそうである。

 

 このようなリスクを踏まえた「婚活」が必要ではないだろうか。